The Swiss voice in the world since 1935

邪悪な存在から一大ブームへ スイスのキノコ物語

赤いキノコの絵
スイスの芸術家であり研究者でもあるハンス・ヴァルティが描いたベニテングタケ Wikimédia/スイス国立博物館

キノコ狩りはスイス全土で人気の娯楽となった。また菌類は科学と産業において計り知れない可能性を秘めている。しかしこの魅力的な生物はかつて有害と見なされていた。イメージの大転換はなぜ起こったのか?

スイスインフォでは、スイス国立博物館のブログ外部リンクから歴史に関する記事を定期的に紹介します。ブログの記事はドイツ語、フランス語、英語などでも掲載されています。

スイス最大の生き物をご存じだろうか?その正体は、35ヘクタール、サッカー場50面分の広さを誇るスイス国立公園外部リンクで見つかる。答えは、菌類だ。これほどまでに巨大化する植物や動物は他にない。国立公園にある巨大な種はナラタケ(タマバリタケ科)で、巨大な菌糸体で知られるキノコの一種だ。無数の微細な菌糸が地下ネットワークを築き、これこそが生物の本体を構成する。

数週間だけ、菌糸ネットワークは地面から生える子実体を形成する。この目に見える生殖器官こそが、私たちが通常「キノコ」と呼ぶものだ。それらを採集し、調理し、食べる行為は比較的新しい現象だ。長い間、この特定の菌類は神秘的で危険なものと考えられてきた。詳細をほとんど知られておらず、人々は「邪悪な」煙を吸い込むことを恐れていた。

キノコの妖怪に手を引かれる老婆
キノコは常に神秘的なオーラに包まれ、しばしば魔術と結びつけられてきた。オーストリア人イラストレーターFranz Wacik画 Wikimédia

キノコが嘔吐、下痢、頭痛、感覚知覚の変化、心拍数の増加を引き起こし、最悪の場合死に至ることもあるのは事実だ。こうしたリスクを考慮すれば、有毒種と食用可能な種を体系的に区別できる技術が確立されるまで、キノコが人間の食用に適さないと見なされていたのも無理はない。パリのカタコンベ(地下共同墓地)ではキノコが栽培され、各地の郷土料理に散見されていた。だが必要な知識が本格的に発展し普及し始めたのは、19世紀に入ってからのことだった。

地下でキノコを栽培する様子を描いたイラスト
パリの地下墓地では、18世紀から非常に人気の高いキノコが栽培されてきた Internet Archive

キノコへの新たな関心を刺激したのは、研究者とアマチュア愛好家の双方だった。生命科学もまた菌類に注目を向け、新たな手法と知見を応用した。菌類に魅了された数多くの学者のなかには、当時最も著名な人物の一人がいた。今日でも低温殺菌法を発見した人物として知られるフランスの科学者ルイ・パスツールは、ブドウがワインへと発酵する原因が酵母菌にあることを明らかにした。有毒な煙のことなど、ワインへの情熱の前ではすっかり忘れ去られた。

学術研究が進むのと同時に、アマチュアの間で専門知識の文化も発展していた。こうしたアマチュア菌類学者たちにとって、すべては大型の野生キノコを中心に回っていた。彼らの目的は明確で、食用キノコを識別し、食中毒を防ぐこと。問題は、人々に体系的かつ安全にキノコを識別する方法をどう教えるかだった。

その答えは「芸術」だった。キノコは保存が難しいため、絵画やスケッチが色や形を記録する有効手段となった。フリブールのルイ・ルフィューのような科学者や、ジュネーブのジャンヌ・ファーヴルのような私学者が、キノコの図譜制作に尽力した。

ハンス・ヴァルティ(1868~1948)も同様であった。ヴァルティが異色だったのは、実際に美術家としての教育を受けていたことだ。ヴァルティの水彩画が備える独特の芸術的品質は、今年再版されたキノコ図鑑外部リンクにもみてとれる。同時に、ヴァルティはキノコに関する膨大な独学の知識を身につけ、この分野における一種のセミプロ研究者へと成長した。

試験管を凝視する研究者の絵
実験室の英雄として描かれるルイ・パスツール。1885年、アルベルト・エデルフェルトによる肖像画 Wikimédia/オルセー美術館

芸術家としての技量と研究への情熱を活かし、ヴァルティは人々の関心を引きつけることに成功した。第一次世界大戦末期に食糧不足が深刻化する中、キノコは貴重な食料源となった。スイス各地の森林では、食用キノコを求めて人々が続々とキノコ狩りに出かける姿が見られるようになった。キノコ市場が多くの町で次々と現れた。

人気の高まりを受け、1919年にスイス菌類学会連合(Verband Schweizerischer Vereine für Pilzkunde)が設立された。同連合は1923年に雑誌「Schweizerische Zeitschrift für Pilzkunde(スイス菌類学雑誌)」の刊行を開始し、1942年にはキノコの野外図鑑「Schweizer Pilztafeln(スイスキノコ図鑑)」を出版した。ズボンのポケットに収まるほど小型で、すぐに全てのキノコ採り手にとって欠かせないアイテムとなった。ハンス・ヴァルティの図版がこれらのガイドブックの挿絵として用いられた。

山積みのキノコを計量する女性
1973年夏の終わりにチューリヒのビュルクリ広場で開催されたキノコ市場 e-pics

キノコブームは戦後の経済成長期にいったんおさまったが、21世紀に入ると再び到来した。今回は、気候やごみ問題が関心の中心だ。建材として、環境破壊につながるコンクリートを代替する。包装資材として、ポリスチレンを代替する。プラスチックや産業廃棄物を分解する働きが、リサイクルツールとして活躍する。比喩ひゆ的に、協力的なネットワークにおける私たちの共存を促すこともできる。

グローバルネットワークが日常語となった現代において、菌糸体は魅惑的で刺激的な現象だ。菌類は今や経済界、科学界、芸術界、文学界の至る所で芽吹いている。時には、まるで世界さえ救えそうな気さえする。だが、そんな考えが空想的すぎると思うなら、秋の森を散歩してキノコを探してみては?気分が明るくなる。悪くない始まりだ。

ハネス・マンゴルド氏はスイスモビリア共同組合との研究パートナーシップを率いる。科学と芸術、歴史の部門横断展覧会や著作、プロジェクトを制作。

スイス国立博物館ブログの原文はこちら外部リンク

英語からのDeepL翻訳:ムートゥ朋子

SWI swissinfo.ch日本語編集部では和訳の一部にDeepLやGoogle 翻訳などの自動翻訳ツールを使用しています。自動翻訳された記事(記事末に明記)は、日本語編集部が誤訳の有無を確認し、より分かりやすい文章に校正しています。原文は社内の編集者・校正者の確認を受けています。 

人気の記事

世界の読者と意見交換

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部